INSIGHTS

第一特許法人は、IP最新動向及び法律情報を定期的に提供します。

韓国における二重特許及び分割出願に関する実務

  • September 30, 2025
  • 朴榮敏弁理士

韓国の特許制度は米国とは異なり、継続出願や一部継続出願を認めておらず、これにより生じ得る二重特許の問題を解決するための存続期間の放棄(terminal disclaimer)制度も存在しない。その代わりに、韓国特許法は分割出願制度を通じて、重複する発明について複数の特許が付与されることを厳格に制限している。

 

 

▶ 韓国における分割出願実務の概要 

 

イ.分割出願の時期要件

特許法第52条によれば、出願人は原出願の願書に最初に添付された明細書の記載を基礎として分割出願を行うことができ、その時期は以下のように制限される。

(i)    最初の審査結果(拒絶理由通知または特許査定)発行前まで
(ii)    拒絶理由通知を受けた場合、その対応期間内
(iii)    拒絶査定を受けた場合、再審査請求または拒絶査定不服審判請求期間内
(iv)    特許査定書の送達日から3ヶ月以内、ただし原出願の登録料納付前まで 

 

ロ.分割出願の一般的活用

分割出願は主に発明の単一性違反の拒絶理由を解消するための手段として利用されている。出願人は、原出願において単一性要件を満たしていない請求項を削除し、それを分割出願として別途審査を受けることができる。

韓国には継続出願制度は存在しないものの、分割出願は事実上、継続出願と類似した機能を果たし得る。分割出願を通じて、出願人は原出願発明の別の態様について別途審査を受け、権利化を継続することが可能である。 


ハ.分割出願の戦略的活用場面

韓国実務では、分割出願は以下のように戦略的に活用され得る。

• 拒絶査定後のより広い請求項の作成
原出願にて拒絶査定が下されると、出願人は特許請求の範囲の縮減、誤記の訂正、不明瞭な記載を明確にする場合に限って補正することができる。したがって、根本的なクレームの再構成や、原出願の明細書により裏付けられる新たな請求項の追加は、分割出願を通じて実現することができる。

• 不服審判請求前の審査機会の確保
拒絶査定不服審判が棄却されたときは、分離出願が可能な場合を除き、追加の補正や審査再開は不可能である。このため、拒絶査定不服審判の請求とともに分割出願を行っておけば、原出願の不服審判が棄却されても、分割出願で権利化を継続することができる。 

 

ニ.最近の制度改正

• 分割出願の審査順序の変更
特許庁は特許審査事務取扱規定を改正し、2025年1月1日より着手される分割出願の審査順序を変更した。従来は分割出願の審査着手時期が原出願の審査順序に従って決定され、他の出願の審査が遅延されるか、原出願の拒絶査定に対する不服審判とともに分割出願が出願された場合等において、原出願の審査が終結する前に分割出願の審査が先に進行される問題があった。改正後は、分割出願も他の出願と同様に、それ自体の審査請求順に基づいて審査が進められる。

• 分割出願に対する審査猶予制度の導入
通信、製薬、バイオなど開発期間の長い産業分野を考慮し、分割出願についても審査猶予が認められるよう特許法施行規則が改正された。2025年7月11日から施行された該制度により、出願人は、審査請求日から9ヶ月以内に審査猶予を申請でき、実体審査の開始時点は審査請求日から2年以降、かつ原出願の出願日から5年以内の範囲で指定することができる。 

 

 

▶ 韓国特許法上の二重特許の取扱い

 

分割出願は発明の権利化を継続する手段となり得るが、このような分割出願は原出願と実質的に異なる発明を請求しなければならず、そうでない場合、同一発明が出願されたことを理由に拒絶される。

韓国の二重特許に関する制度は、近年立法的・手続的変化なく維持されており、特許法第36条および大法院判例に基づいて運用されている。 

 

 

イ.関連法条項:特許法第36条

特許法第36条第1項は、同一の発明について2以上の特許出願がある場合、先に出願されたもののみ特許を受けることができると規定している。同日に同一の発明が出願された場合、出願人は協議して一つの出願を定めなければならず、協議が成立しないときは、いずれの出願人もその発明について特許を受けることができない(第36条第2項)。

韓国実務上、原出願と同一または実質的に同一の請求項を含む分割出願は、特許法第36条第2項に基づき拒絶理由に該当する。 

 

ロ.二重特許に関する判例動向

大法院は、第36条における同一性の判断基準について、たとえ両発明が技術的構成に相違があるとしても、その相違が周知慣用技術の付加・削除・変更等により新たな効果を生じない程度にすぎない場合は、両発明は実質的に同一であると判示した(大法院2004年3月12日宣告2002Hu2778判決)。

これに基づき、大法院は発明のカテゴリーの相違だけでは同一性が否定されないとし、事案ごとに発明の同一性可否を判断している。具体的に、大法院は、同日に出願され、それぞれ特許および実用新案登録を受けたワックス再生方法とこれを行う装置発明が同一発明に当たると判断し(大法院2005Hu3017)、また、同一の技術思想に基づく化合物発明と化合物の製造方法発明が互いに同一発明であると認めた(大法院2007Hu2797)。

さらに、特許法院は、分割特許の特許請求の範囲が原出願特許の権利範囲を含む事案において、両特許が同一技術思想に基づくものであり、構成上の相違が新たな効果を発生させない場合、実質的に同一発明に該当すると判示した(特許法院2017Heo1021)。 

 

ハ.分割出願における二重特許リスク

韓国特許庁の審査基準では、両発明が技術思想に影響を与えない非本質的な相違のみ有する場合、実質的に同一発明とみなすと規定している。例えば、単純な表現の相違、効果・目的・用途の相違、構成の単なる置換などは、いずれも二重特許に関する特許法第36条の拒絶理由となり得る。

したがって、原出願と分割出願との間に発明のカテゴリーが異なっていても、両出願の特許請求の範囲が特許庁の前記基準に照らして同一と判断される場合、二重特許に関する拒絶理由が生じ得る。 

 

ニ.二重特許に関する拒絶理由への対応

以上の理由から、分割出願を行う際は、原出願と分割出願が実質的に区別されるように特許請求の範囲を作成することが重要である。

韓国では、原出願と分割出願との間に存続期間の相違はないため、これに関連する米国の存続期間放棄制度も当然存在しない。したがって、二重特許の拒絶理由は、
(i)    一方の出願から当該請求項を削除する、もしくは、
(ii)    両出願の請求項を明確に区別できるように補正する、方法でのみ解消が可能である。